移住者の声
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宮沢賢治が好きすぎてとうとう花巻へ移住
賢治文庫
塩野夕子さん
Profile
●1984年新潟県生まれ。
●賢治文庫
岩手県花巻市大迫町大迫第3地割161
早池峰と賢治の展示館2階
2022年取材(内容は取材当時の情報)
賢治ファンが集まれる場所を
大迫町の市街地の一角、まちに溶け込む住宅の前に「賢治文庫」という、黒板でできたかわいらしい看板がある。普通の民家の玄関先だ。
店でもないし、施設っぽくもない。呼び鈴を鳴らすと、笑顔で迎えてくれたのが塩野さんだった。
玄関からすぐの広い部屋に案内されると、部屋の真ん中に大きなテーブルがあり、一方の壁は天井近くまで書棚になっている。並んでいるのはほとんどが宮沢賢治関係の本。作品の本ばかりではなく、専門の研究書もたくさん。賢治研究のバイブルとして認識されている高価な「校本宮沢賢治全集」も全巻揃っている。
「自分で買った本もあるのですが、賢治文庫を始めることを知った人からいただいたりしました。賢治さん好きの人たちが集まれる場所を作りたいと思って、自分が借りて住んでいる家の1部屋を解放することにしたのです」
塩野さんはニコニコ話し始めた。
宮沢賢治との運命の出会い
母親の実家がある新潟で生まれ、父親の仕事の関係で埼玉県上尾市に移り住み、幼稚園時代から過ごした塩野さん。
高校時代には部活をしていなかったので、学校と自宅の間にある図書館に毎日のように通っていたという。
高校卒業後、専門学校を経て就職したものの、仕事の大変さや人間関係、長距離通勤で疲れてしまった。
そんな中、出会ったのが宮沢賢治だった。
「プラネタリウムで『銀河鉄道の夜』の短編アニメーションを見たのがきっかけで、その世界観に感動しました。それまでは教科書の『やまなし』ぐらいしか知りませんでしたが、こんな世界だったんだと」
さっそく通い慣れた図書館で賢治関係の本を借りて読み始め、賢治ならではの自然への視点や表現に魅せられていった。
「父親が山好きで、小さい頃よく連れていってもらったことも思い出しました。もしかしたら私は山が好きで賢治さんに惹かれたのかもしれないと気がついたのです」
2016年、塩野さんは初めてのひとり旅、初めての東北旅行で花巻を訪れる。賢治の故郷に興奮していたという。それから何度か花巻を訪れるうちに、花巻図書館に行く機会があった。
「地元の図書館にも賢治さんの本はあったのですが、花巻図書館はその規模が段違いで。花巻に住んでしまえばいつでもこの本たちを読むことができるかもしれないと思ったのが移住の最初のきっかけです」
地域おこし協力隊として迷わず移住
行動は早かった。
2017年には東京の有楽町にあるふるさと回帰支援センターでいろいろ相談。そのうち花巻市が地域おこし協力隊員を募集していることを知る。仕事内容はシティプロモーション。説明会や現地視察などを経て、塩野さんは「宮沢賢治を通したプロモーション」を提案し、採用となった。
2018年10月、晴れて花巻市に赴任して移住となった。主に花巻市が運営し、市民ライターが花巻を紹介するwebサイト「まきまき花巻」のディレクターを務め、3年間の任期間に「宮沢賢治花巻まち歩きファンブック」「まきまき花巻紹介冊子」を制作。任期終了と同時に大迫の家を借りて引っ越し、賢治文庫を立ち上げた。
「賢治文庫を始めたきっかけは2019年の賢治祭でした。全国各地からいらした賢治ファンと話すことがとても楽しかったのです。しばらくして知人から賢治さん関係の本をいただき、自分だけで読むのではなく、花巻を訪れる賢治ファンの人たちと共有したいと思いました」
協力隊任期中はアパートに住んでいたが、人を呼べるところで住みながら「文庫」を作りたいと貸家を探し、自分が好きな山(特に賢治も好きだった早池峰山)が近い大迫に住み始めた。
現在は宮沢賢治記念館に勤めながら、休日には全国からやってくる賢治ファンを賢治文庫に招き入れている塩野さん。今日も花巻で賢治とともに生きている。
移住・定住ガイドブック「花巻ひと図鑑」より